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【映画評】ズートピア〜この映画の何がスゴイのか? ディズニーの凄味と深い叫び――★★★★☆

 

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ズートピア観てきました!
GW中、相当お客さんが入っていましたね〜。

 

僕自身も都合2回観たのですが、1回目と2回目で感じるものが全く異なりました。

 

1回目の感想は、正直に言えば『物凄く良くできているけれど、ミスしないことだけを目指した量産可能な作品』というものでした。

 

しかし2回目を観終えて、いや、これはそうじゃないな、と感じました。

 

この作品は『ディズニーという絶対に失敗を許されない枠ギリギリを熱く攻め切ったクリエイターの魂や叫びのあるものだ』、と思い直したのです。

 

この作品には、『どうしても今言っておきたいことがある!』という想いと深味がある。

 

それは『『差別と偏見』という重いテーマを取り扱っているから』という理由では決してありません。

 

『重いテーマ』=素晴らしい、とならないことは幾つか映画や本を手に取ればすぐにわかります。(あえて具体名は挙げませんが)

 

ではこの作品の一体なにがそんなにも熱く、強く、また素晴らしかったのか?(と、僕は感じたのか?)

 

『ただ良質であること』を踏み越えたこの作品のポイントを以下に書いてみたいと思います。

 

 

今日のコンテンツ
・隙のないエンタテイメントとしての『質』
・それでも枠からはみ出る、『今、俺たちはこれを言いたいんだ!』という叫び

隙のないエンタテイメントとしての『質』

 

はじめにこの作品がそもそも『良質』であることについて簡単に触れておきたいと思います。

 

まずこの作品はエンタテイメントとしてスキがない。
ガチガチに基礎を押さえている。
本当に。

 

幾つか例を挙げます。

 

○良質な物語はふたつの謎で観客をけん引する

 

良質な物語は観客や読者の心を掴んで先へ先へと話を進めていくものですが、こうした推進力を生み出す力のひとつが『謎』です。

 

誰が犯人か?
なぜ○○はそんなことをしたのか?
探し物はどこに行ってしまったのか?

 

往々にして良い作品はこの『謎』が解消されるタイミングが2回あります。
ひとつ目の『謎』は物語の2/3に差し掛かるあたりで解決され、なお残る謎や新たな謎が更に私達を物語の奥へと引っ張っていくのです。

 

(ズートピアで言うと『行方不明者はどこに行ったか?』がひとつ目の謎であり、『なぜ行方不明者はオカシクなってしまったのか?』がふたつ目の謎)

 

一度ご自身でも過去楽しんだ作品を振り返ってみてください。
楽しめた作品の多くは、この『謎』の2段構えをとっているはずです。

 

 

○観客への作品世界への導入の上手さ(速さ)

 

物語はいわば虚構の世界ですから、現実世界とは多くの点で異なる点(設定)を持っています。
この設定部分についていかに素早く、またわかり易く観客に理解してもらうかは作り手の腕の見所ですが、このあたり、ズートピアは実に見事でした。

 

冒頭10分足らず、ジュディがズートピアにたどり着くまでのわずかの間に実の多くの事柄をこの作品はわかりやすく、かつスピーディーに観客に――ワクワクさせながら――伝えることができています。

 

・ズートピアの歴史@子供劇
・何にでもなることができる!というメッセージ
・ジュディ(主人公)の性格や夢、知恵と勇気@警察学校や子供時代の警官ごっこ
・ズートピアという都市の全体像から住民や生活の細々とした雰囲気@列車での上京

 

特に列車のシーンは素晴らしいですね。
ほんの2〜3分の間でズートピアという街のエネルギーや夢を美しい映像で私達にダイレクトにぶつけてきています。(あの列車の窓を伝う雨の流れ!)

 

昨今、SNSやyoutube等が普及した結果か、映画のカットの高速化が物凄い勢いで進みましたが――要はみんなすぐに飽きるようになった――ズートピアはこの高速化の流れに逆らうことなく、必要な物事を――とびきりのワクワクと共に――観客に提示することに成功しているのです。(スゴい!)

 

また、お約束のチェイスシーン(追っかけっこ)や緩急の“緩(ナマケモノ)”の魅せ方も見事なまでの“外さなさ”でした。

 

 

○クリーン過ぎない会話や描写

 

ズートピアは差別と偏見という重いテーマを扱いつつも、決してクリーンな無菌映画にはなっていませんでした。
ディズニー作品のセルフパロディやニックのウィットに富んだセリフなど、実に“バランスの取れた“汚し”があり、大人も楽しめる――単なる子供映画でない――ユーモアが随所に見受けられました。

 

このあたりのバランス感覚はちょっと驚異的です。
相当何度も“磨き”をかけないとできない。
(誰からも好かれて、なお嫌われず、かつ媚びてるように見せないなんて普通できないですよ、本当に)

 

それでも枠からはみ出る、『今、俺たちはこれを言いたいんだ!』という叫び

 

良く小説や漫画の賞の選評などに、『この作品にはどうしてもこれだけは言っておきたいという作者の切実な叫びがあった(なかった)』なんて文章が書かれていたりします。

 

要は少しくらい破綻していてもいいから『お前にしか言えないことを聞かせてくれ!』ということなんでしょう。

 

逆に言えばこうした叫びのない作品が多々あるということなのだと思います。

 

実際テンプレートでもあるのかな? という位、既製品を寄せ集めた、熱意のない作品の多いこと!

 

しかしそうなってしまう背景も理解できるような気はします。

 

何か個別の想いのある言葉は理解されづらい。
反感もかいやすい。
もっと言えばはっきりした言葉はその分だけ反対意見も言いやすく、非難も批判もされやすい。

 

だから極力無難に、予算としがらみの中で問題のない作品が作られていく。

 

正直に言えば幾つかのディズニー(CG)アニメは、個人的にはそういった“無難カテゴリ”の作品という印象でした。

 

毎度毎度、家族愛や友情など、誰からも非難されないテーマの大切さを物凄く磨き込んだ消耗品。
来年には今年のような、別の作品が量産される。
そんなイメージでした。

 

 

けれど、ズートピアはそうではありませんでした。

 

物語の後半、列車内で肉食動物の隣に座る草食動物の親子が思わず恐怖を感じ距離を取るシーンがあります。
なんとセンシティブなシーンでしょう!

 

 

私達はパリでテロがあったことを知っています。
今ヨーロッパではイスラム的であるというだけで暴力にさらされ、排斥される事件が頻発しています。
ドイツではモスクが襲撃され、フランスでは難民キャンプが襲撃されました。
イスラム教徒に集団レイプを受けたと――彼氏に会いに行っていたことがばれたくなくて――嘘をついたドイツ人少女がいました。
これはヨーロッパにおけるイスラム的なものに限ったことでしょうか?
アメリカでは次期大統領候補がメキシコ人を追い出せ!と叫び、日本では小さな子供たちが歩く往来のすぐ横で○○を殺せ!と叫ぶデモが繰り返されています。

 

世界のあらゆる場所で、今私達自身が差別や偏見の加害者になり、また被害者になる日々が繰り返されている。

 

 

ズートピアの本当に凄いところは、こうした偏見――肉食動物は“生物学的に危険だ”という偏見――を“まき散らす”過ちを犯したのは、(黒幕がいたとはいえ)誰あろう“主人公”のジュディであるということです。

 

主人公は間違いを犯さないわけではない。
誰かを――ニックを――深く傷つけ、知らず知らず世界を“より悪く”してしまう片棒を担いでしまう。
一方的に裁く立場ではなく、むしろ裁かれる立場に立つ。

 

しかしジュディは自らの過ちに気付きます。
そしてニックのもとに行き、これまでふたりが築き上げた友情を再び取り戻す。

 

この物語はラスト、警察学校のスピーチで幕を閉じます。

 

 

正直に言えばこうした映画のラストをある種のメッセージで締めくくるのは決して上手いやり方ではありません。
あまりに『テーマ性』が表に出てき過ぎると観てる側がさめるリスクが高くなるからです。

 

これまでの長い時間をどう楽しんめたかに想いを馳せるよりも、映画のわかりやすいメッセージに批判的になる方が簡単だし、自分のことを”通”だと思えたりもしますから。

 

しかしズートピアは、あえてこれをやった。
これ程ガチガチのエンタテイメントに徹した作品であるにもかかわらず、最後にズートピアは青臭い想いを言葉にして叫んだわけです。

 

僕はこれは物凄く勇気のいる判断だったと思う。
もしただ楽しい作品にするだけなら、このシーンはなくても良かったでしょう。
ニックとジュディが見つめ合うだけで映画としては満足できます。
でもそうしなかった。
『主張した』のです。

 

「私は諦めない」
「私は変わることができる」
「私たちは世界をより良くすることができる!」

 

ズートピアは決して「お前が変われ!」とは言いません

 

ズートピアは、『お前が間違っているんだから変われ!』というのが暴力であることを知っているのです。

 

『イスラム? お前が変われ!』
『俺たちを受け入れない? お前が変われ!』
『お前が変われ! お前が成長しろ!』

 

 

 

この作品が『差別と偏見』の全てを語れているとは思いません。
差別してしまう感情や、そこに喜びを見出す人間の心理やドロドロとしたものが描かれているわけでもありません。本当の裏切りも不信の描写もこの作品にはないでしょう。

 

けれど僕は思うのです。
苦しく、辛い世の中や、後味の悪い差別の“真実”を描く作品を世に問うことのできる作家は恐らく他にもいるだろうと。

 

けれど、『今』、『この瞬間』、『この世界に』に、もしかしたら親に連れられて初めて映画館に来たかもしれないワクワクした子どもたちに向けて、『世界はより良くすることはできるんだよ』と、『諦めないでいい』『トライ、エブリシング』と高らかに言える作家(スタジオ)がディズニーをおいて他に幾つあるでしょう?

 

>震災があっても、9.11のテロがあっても喜びと夢を信じ営業を止めなかったディズニーしか言えない言葉がこの作品にはあったのだと僕は思う。

 

誰からも嫌われてはいけない高偏差値エンタメ集団『ディズニー』という、ある意味で最も表現規制が厳しいだろう環境の中で子供たちに向けて『世界をより良くしていける』という言葉を叫んだ作り手たちに、僕は深い尊敬と敬意の念を抱きます。

 

凄かった。
観てよかった。

 

 

p.s
ジュディとニックの仲直りのシーン、超いいですね。可愛い。

 

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