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【書評】想像ラジオで紹介された曲が見せる作品の深み(1)

 

前回想像ラジオの書評をアップしましたが、今回は想像ラジオで紹介された曲から、この作品の中身をより深く味わってみようという企画です。

 

結果、意外というか、やはりというか、やはりそれぞれの曲がこの作品をの魅力をより深めるためにしかるべき箇所で紹介されていることがわかりました。

 

想像ラジオのDJアークが選曲したリスト一覧

 

  1. ザ・モンキーズ 『デイドリーム・ビリーバー』 1967年
  2. ブームタウン・ラッツ 『哀愁のマンデイ』 1979年
  3. フランク・シナトラ 『私を野球につれていって』 1949年
  4. ブラッド・スウェット&ティアーズ 『ソー・マッチ・ラブ』1968年
  5. アントニオ・カルロス・ジョビン 『三月の水』 XXX年
  6. マイケル・フランクス 『アバンダンド・ガーデン』 1995年
  7. コリーヌ・ベイリー・レイ 『あの日の海』(Album The Sea) 2010年
  8. モーツァルト 『レクイエム』 
  9. 松崎しげる 『愛のメモリー』 1977年
  10. ストラヴィンスキー 『《ペトルーシュカ》からの3楽章』
  11. ボブ・マーリー 『リデンプション・ソング』 1980年

1.ラストを予感させる、ザ・モンキーズ 『デイドリーム・ビリーバー』 1967年

 

さて、それでは早速一曲目からご紹介していきたいと思います。

 

一曲目に紹介されるモンキーズの『デイドリーム・ビリーバー』

 

日本では忌野清志郎さんによる日本語カバーがセブンイレブンのCMで繰り返されているので、耳馴染みのある曲であるかと思います。

 

 

出だしはこんな風に始まります。

 

Oh, I could hide ‘neath the wings
Of the bluebird as she sings.
The six o’clock alarm would never ring.
But it rings and I rise,
Wipe the sleep out of my eyes.
My shavin’ razor’s cold and it stings.

 

あぁ、隠れることができればいいのに。
あの鳴いている青い鳥(彼女)の翼の下に。
6時の目覚ましがずっと鳴らなければいいのに。
でも目覚ましは鳴って、僕は起きるんだ。
僕は眠たい目をこする。
髭を剃るカミソリは冷たくて、ヒリヒリするよ。

 

この曲が意図的に一曲目に選曲されているのは、歌詞を見れば明らかかと思います。

 

小説のラスト、第5章を思い出してみましょう。

 

作家Sの愛した女性は死後、美しいハクセキレイとなってDJアークの傍に寄り添い、作家S(生の世界)とDJアーク(死後の世界)とを繋げます。
(愛するものを失った痛みを想像力の源泉として繋がりあう)

 

鳥(彼女)の翼の力を求める男が(止むにやまれず)目を覚まし、軽く痛みを覚える歌でこの小説は始まるのですね。

 

この選曲は相当渋い。凄い。

 

2.理不尽な死への怒り ブームタウン・ラッツ 『哀愁のマンデイ』

 

続いて二曲目のこの『哀愁のマンデイ』

 

文中でも軽くこの曲について触れられていますが、この曲は、アメリカに住む16歳の少女が父親からプレゼントされた銃を小学校の校庭で遊ぶ児童に向け乱射したという痛ましい事件を元にして作られたものです。

 

この乱射により、2名の大人が死亡し、8名の児童と警官が負傷をしています。

 

殺人を犯した少女は事件の動機を父に問われ、こう答えます。

 

『理由なんてないわ。月曜日が嫌いなだけ』

 

この事件は米国における未成年者の銃乱射事件の“ハシリ”でもあり、また『理由なき殺人』の”ハシリ”でもありました。

 

アイルランドのバンドによってつくられたこの曲はバンドの主戦場であるイギリスでは大ヒットを記録するものの米国ではほとんど売れませんでした。

 

殺人事件の現場となった国ではこの曲は事件を”ダシ”にした不愉快な曲という扱いだったのでしょう。

 

事件の現場となった州では長い間この曲をラジオではかけないと宣言、自主規制を行いもしました。

 

(未成年者による理由なき殺人と、それをテーマにした創作に対する拒否反応という意味においては、2015年(非常に悪い意味で)話題になった少年Aの絶歌と神戸の関係にも似ていると言えそうです)

 

(絶歌の取扱いに関するエントリーはこちら 絶歌のあるべき取扱〜表現の自由という名のファシズム〜)

 

 

さて、この歌の中で娘の父親は娘になぜ銃を乱射したのか、その理由を繰り返し問います。

 

『なぜこんなことをしたんだい? 
どうしてこんなことをしたんだい?』

 

けれど『頭のマイクロチップに過負荷がかかった』と描写される娘はただこう繰り返すだけです。

 

『理由なんてないわ。
月曜日が嫌いだっただけ
月曜日をただ打ち抜きたかっただけなの』

 

 

3.11を経験した私たちはこの父親の気持ちを少し理解できはしないでしょうか?

 

『なぜこんなことが起きるんだい?
どうしてこんなことをしたんだい?』

 

もちろんこの問いに海も地面も答えを返すことはありません。

 

それはどこまでも理不尽で理由なく、『ただ起きたから起きた』だけです。

 

そして『想像ラジオ』という小説は、この理不尽な死への怒りと不可解さをこの曲に託しながら話を進めていくわけです

3.フランク・シナトラ 『私を野球につれていって』 1949年

フランク・シナトラ 『私を野球につれていって』

 

 

軽快なこの曲はその名の通り野球にまつわる歌となっており、半世紀以上たった今も米国民に愛されるヒットソングとなっています。

 

今もメジャーリーグでは7回表終了時にこの曲を観客全員が歌いながら凝り固まった足をほぐすためにストレッチするという、「セブンス・ストレッチ」という習慣が続いています。

 

さて、この曲ですが、その歌詞の中身を見ると、こんなことを歌っています。

 

Take me out to the ball game.
Take me out with the crowd.
Buy me some peanuts and Cracker Jack.
I don't care if I never get back.
Let me root, root, root for the home team.
If they don't win, it's a shame.
For it's one, two, three strikes your're out at the old ball game.

 

私を野球に連れてって。
観客の所に連れてって。
ピーナッツとクラッカージャックを買ってね。
帰れなくなっても構わない。
さあ地元チームを応援、応援、応援!
もし、勝てなかったら 悔しいね。
ワン、ツー、スリー・ストライクで、バッターアウト。

 

※引用元 http://xn--6oq36er1r1n5a4bdgvo.com/music/take_me_out_to_the_ball_game.html

 

DJアークはこの曲を流す直前、故郷の(恐らくは東北の)土地に長く住む祖父との嫌な思い出について語ります。

 

祖父のことを嫌いだ、と明言する一方で、すぐさま、地元チームを応援しよう!と明るく歌う歌を流す。

 

これは(これも)個人的な解釈に過ぎませんが、僕には、嫌な思い出があったとしてもそれでもこの土地を(東北を)――できれば軽く・明るく――応援したい、というDJアークの想いや姿勢ののようなものを表現しようとしているように見えるのです。

4.ブラッド・スウェット&ティアーズ 『ソー・マッチ・ラブ』 1968年

 

ド直球のラブソング、「ソー・マッチ・ラブ」。
歌詞の詳細は和訳を含みこちらのサイトをご参照いただければと思うのですが、

 

http://blog.livedoor.jp/tarutarusoosu/archives/54324994.html

 

この小説においてはむしろこのアルバムタイトルが深い意味を持っていますね。

 

『子供は人類の父である』

 

この曲を流す直前、DJアークは息子の話を少しします。

 

息子は本に耳をあてるとそこから音楽を聞き取ることができる、という何とも不思議なエピソードです。

 

『想像ラジオ』という作品には重要なメタファーとして、『耳』、『聞く』というものが繰り返し登場します。

 

作家Sは片方の耳が聞こえにくくなり、病人は耳が聞こえずラジオを聞き、作家Sの友人は死者のラジオを聞き、DJアークは家族の声を聞きます。

 

そして、息子は小説から音を聞く。読んで理解するのではなく、小説を”聞き”、そして踊る。
彼は頭で本の意味を理解するのではなく、身体で感じ取ることができるのですね。

 

そしてこの息子のエピソードのすぐ後に、『子供は人類の父である』とDJアークは言いいます。

 

まるで私達大人は子供たちにこそ、学ぶべきものがあると言っているかのように。

 

では私達は子供たちに一体何を学ぶのでしょうか?

 

それは恐らく理性や一般通念を飛び越え、まずは耳を澄まし、声を聞き、身体と声で何かを感じようとする、ということでしょう。

 

死者の声に耳を澄まし、小説の声に耳を傾ける。

 

恐らくいとうせいこうさんは、『そもそも小説自体が死者の声(ここにいない人の声)なんだ』と考えているのではないでしょうか?

 

そしてそのことを理解しているのは、大人よりもむしろ子供であると、そうこの曲は通じ言おうとしているように僕は思います。

 

ちなみにこのブラッド・スウェット&ティアーズの曲についてですが、この『ソー・マッチ・ラブ』という曲よりは、この『スピニング・ホイール』という曲の方が耳馴染みがあるかもしれません。

 

 

この曲、日本を代表するヒップホップグループのひとつ、リップスライムのヒット曲『雑念エンタテイメント』の元ネタにもなっているので、これを機会に一度聞き比べてみてもいいかもしれません。

 

5.特別な水 アントニオ・カルロス・ジョビン 『三月の水』 

 

ボサノバの名曲中の名曲、三月の水。

 

カフェなどで流れていることも多く、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?

 

軽やかな曲調にのせて歌われるこの歌は、『生』、『死』、『自然』、『時の流れ』、『出会い』、『別れ』、『生活』といった相反する要素各々全てが並列に列挙され、その歌詞の深味は一種宗教的ともいえるものでもあります。

 

→和訳をされている方のサイト http://ameblo.jp/higashiemi/entry-10495165940.html

 

『想像ラジオ』はこの『三月の水』というタイトルに新たな意味を付け加えようとします。

 

あの時の津波もまた、三月の水のひとつであるわけですから。

 

さて、この曲に関しては、ジャズミュージシャンである菊地成好さんが見事な解説をなさっていますので、こちらもよければお聞きください。

(菊地さんは以前映画『セッション』評にて物議をかもした方でもあります。個人的その評が全然納得できなくて、変な人なのかなぁとも思っていましたが、いや、音楽に関してはさすがですね。見解を改めます)

 

当サイトのセッション評はこちら→『セッション〜ブラック企業的観点からみるフレッチャー〜』

 

(2)に続きます。

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