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【映画評】龍三と七人の子分たち 〜 ビートが撮る北野 〜 ★★★☆☆

 

北野映画最新作、『龍三と七人の子分たち』を観てきましたのでその映画評になります。

 

まず総評ですが、いやー、見てよかったです。面白かった。

 

この作品、いわゆるコメディで笑える映画ではあるのですが、一方で、北野武がもつ分裂性・二重性をもっとも作品として昇華できた映画にもなっており、監督北野武、芸人ビートたけしの双方のファンが楽しめる作品になっていたように思います。

あらすじ

藤竜也演じるは龍三親分。
昔はヤクザの第一線で活躍していたものの今は引退、堅気の息子家族と暮らすが市民生活に馴染めるわけもなく疎んじられてはクスぶる毎日。

 

そんな龍三のもとに一本の電話が。

 

それはオレオレ詐欺で、息子を思わばと図らずも詐欺にかかってしまう龍三。

 

余計に鬱屈とした龍三は昔の元極道のキワモノ爺を呼び集め、やっぱり俺たちゃヤクザだぜ、と組を再結成。

 

オレオレ詐欺の首謀者でもあり、街を荒らす半グレ集団、『京浜連合』との因縁は次々に深まり、やがて怒りがピークに達した龍三たちは……!

 

ビートたけしが北野映画を撮ることになったら

※以下、ネタバレありですので、映画未鑑賞の方はご注意ください。

 

この作品、随所にたけし節とでも呼ぶべきブラックではあるけれど笑えるジョークが満載で、これまでの北野映画にあった寂寥感や「あぁこいつは、どこにももういけない奴なんだ」という冷えた狂気はありません。

 

また、アウトレイジのような「バカヤロー、コノヤロー節」がなんとも気持ちよくなっちゃう式のエンターテインメントもありません。

 

 

とにかく往年のツービートのネタを映画で披露しているような、とにかくお笑いにグッと針を振りきった、『痛快コメディ』ともいえるような作品に仕上がっています。

 

 

なのですが。

 

この作品、実際にはそれだけはありません。
(もちろんそれだけでも全然OKではありますが)

 

ある意味で“北野武”という、芸人として頂点を極め、同時に世界的な映画監督としても成功をおさめた“にもかかわらず”圧倒的な寂寥感と孤独と狂気、そして自己評価の異様な低さとが同居する、極めて複雑な北野武という人間性をひとつの作品に昇華することに成功しているからです。

 

 

これまでの北野映画はその暴力や狂気の狭間に笑えるシーンがあったとしても、その笑いはその源泉に狂気、言い換えれば『別に生きてたいわけじゃないんだよオイラ』的な世捨て人的な感性や、『ワクワクできるんだったら殺してもいいじゃん、ハハハ』的な少年的暴力性が否応なく滲み出ていました。

 

この作品ではそのような狂気じみた笑いはなく、あくまでも悪戯っ子的な笑い、テレビで見れる笑いに収まっています。

 

このような書き方をすると「マルい、ヌルい笑いなのかな?」的に思われる方もおられるかもしれませんが、そうではありません。

 

 

この作品、筋書だけみるとこれまでの北野映画の筋とほぼ同様です。

 

いわば典型的なヤクザ映画なのです。

 

 

一旦は社会から弾かれた“負け犬(アンダードッグ)”が仲間とともに、敵役との因縁を深め、ラスト、暴力的カタルシスを散々に発散した後に勝者なく全ての幕が降りていくという……。

 

そのようにして見るとこの映画のラスト、市営バスでの大暴走などはまさしくソナチネのマシンガンの乱射と同じなのです。
無茶苦茶ヤッて終わる。

 

ですがこのシーン、僕は大笑いしてしまいましたし、実際劇場も笑いで包まれていました。

 

ハッキリ言ってこのシーン、完全に往年の伝説的お笑い番組にして彼の代表作でもある『お笑いウルトラクイズ』なのですね。

 

実際の撮影でも役者の“ジジイ”たちは、あれだけのキャリアを誇る名優であるにも関わらず、暴走バスに実際に乗せられ、必死になって手すりに掴まっていたそうです。

 

で、終わった瞬間たけしさんに、『殺す気か!』と言ったという……。
思わず、「上島か!」と言ってしまいそうないいエピソードです。

 

 

つまり、この作品はその骨格はある種典型的なまでの北野武映画であるものの、その味付けは徹底的に「ウルトラクイズ的」「ツービート漫才的」なもので覆われているのです。

 

 

ビートたけしという人は、その才能の根幹にどうしようもなく分裂したところがあります。
彼は笑いの天才であったものの、映画や絵画、数学などの「美的」なものへの羨望を隠すことも捨てきることもできません。

 

そして間違いなく「美的なるもの(映画)」の才能を与えられているものの、彼の冷徹なまでの批評・観察眼は彼をして「俺はしょせん本物ではないのではないか?」という不安を抱かせます。

 

それはもしかしたら彼のもつ、どこかで“教育”を俺は受け切れていない、というコンプレックスが源にあるかもしれません。

 

そのような彼の不安定さ、二重性、屈折はこれまで北野映画としては特に初期作品によく表現されていたように思います。

 

無邪気で笑えるのに、だからこそ残酷で、行き場なく、どうしようもなく寂しい。

 

今回の映画は、そのような彼の特質を“ビートたけし”的才能側として表現できているように僕は感じました。

 

残酷で無茶苦茶で、ひどい話なのに、底抜けに笑えて、ワハハと笑って楽しめてしまう。

 

もしビートたけしという芸人に、北野映画をリメイクしてくれませんか?と依頼したら?

 

この映画はそんな映画だったようにも思えます。

 

もちろんこれまでもTAKESHIS’に代表されるように、そのような二重性をモチーフとした映画はあったのですが、楽しめる作品に仕上がっていること、ビートたけし的視点からの自己回答という点で、この作品は出色のデキではないかと僕は考えます。

死ぬから明るいジジイたち。生きるから暗いソナチネ。

また、この映画の主役が”ジジイ”であることの意味についても触れておきたいと思います。(4/28追記)

 

この映画、コピーでも『俺たちに明日はない!』と言う通り、言ってしまえば老い先短いジジイがメチャクチャする映画です。

 

と言いつつも彼らは明日の生活費を稼ぐために色んなことに手を出したりと、決して「明日には死ぬから今日を自暴自棄に生きている」人物たちでは決してありません。

 

もっと言えば、「結構必死に生きようともがいている」と言っていいかもしれません。

 

一方、ソナチネ等初期たけし作品は、寿命の面から見ると「明日がある」人物たちばかりです。

 

しかしどうでしょう?

 

彼らは常に「今日にも死んでしまって構わない」と、生きることへの執着が失わっています。

 

北野映画の「死」の空気は、この『龍三と七人の子分たち』においてはじめて、『生への活力』として表現されることになっているのです。

 

 

この一種の逆説は北野映画を理解しようとする際に、僕にとっては非常に興味深く感じられたことでした。

 

つまり、この『龍三』は、「死んじゃうから、明るい」映画であり、『ソナチネ(等)』は「まだ生きてくから死にたい」映画でもあったのです

 

今後の北野映画はどうなるでしょう?

 

ある意味でたけしが死に近づくほど、意外なほどに明るい映画が増えていくかもしれません。

藤竜也の演技

最後に藤竜也の演技について。

 

素晴らしかった。

 

あれだけの風貌があるにも関わらず、画面に「重み」を与えないというのは凄い。
笑い顔がいかにもたけしがしそうな笑顔でした。

 

この映画、ビートたけし的な笑いがありつつも、たけしは主演できなかったろうな、と僕は思っています。

 

たけしが画面に出ると、望むと望むまいと、得も言われぬ“不穏”な感じがでてしまうのです。

 

その意味で最初から最後まで“軽く”ないといけなかったこの映画では主演できなかったように思います。

 

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