前回の続きです。
今回は、ムーンライトの物語の構造を前回の3つのキーワードと絡めながら、解説をしていくと共に、なぜフアンはリトルに優しかったのか? なぜ母親はリトルに冷たくしたのか? なぜシャロンはひとりで闘いを挑んのか? について、キューバ移民の歴史を踏まえながら考察をしていきたいと思います。
◎物語の骨格
映画ムーンライトの物語の骨格をいつものように『思い切り』削りだして(神話等と同等のレベルで)抽象化をすると、大きくは以下のようになります。
『周囲と異なる子ども(異形の子)が周囲から拒絶され、傷つきながらも成長し、やがて共同体からはぐれていく。しかし時を経て、拒絶した人々と再会し関係性を回復していく中で、彼自身もつかの間の安らぎを得る』
『黒人のLGBTによる恋愛』という一種『現代的で刺激的な要素』を除けば、ムーンライトという物語は実は意外なほどに『みにくいアヒルの子』という童話に類似していることに気づく方もおられるかもしれません。
※念のため、『みにくいアヒルの子』のあらすじを紹介するとこんな感じです。
『アヒルの群の中で、他のアヒルと異なった姿のひなが生まれた。アヒルの親は、七面鳥のひなかもしれないと思う。周りのアヒルから、あまりに辛く当たられることに耐えられなくなったひな鳥は家族の元から逃げ出すが、他の群れでもやはり醜いといじめられながら一冬を過ごす。生きることに疲れ切ったひな鳥は、殺してもらおうと白鳥の住む水地に行く。しかし、いつの間にか大人になっていたひな鳥はそこで初めて、自分はアヒルではなく美しい白鳥であったことに気付く。』
美しく実に繊細で胸に迫る恋愛描写がありつつも、ムーンライトの物語の骨格はあくまで『集団から排斥された異形の子の生涯』とでも言うべきものなわけです。
※一応誤解のないように以下2点は強調しておきたいと思います。
・僕自身はLGBTという要素を『異形』だと全く思っていません。(詳しくは前回記事を参照ください)
・似ている話があるから『パクリだ!』とか言いたいわけではなく、あくまでその作品の独自性を味わうために物語の骨格レベルから分析を試みているというだけです。
さて、ではこのような物語の骨格の中で、ムーンライトという物語はどのような構成でそのお話を表現しようとしているのでしょうか?